【JGNイベント記念限定公開 2025年3月12日～4月17日15：00】
NURSERIES vol.8
確実園園芸場

川原田 邦彦さん

　今年で創業100周年を迎えた確実園を訪れた。茨城県牛久市の国道沿いに木の温かみが感じられる風情ある店舗が見える。その奥には20,000㎡あるという、木々が自然な雰囲気で育っている圃場が続く。園主は、NHK趣味の園芸の講師としても知られる川原田邦彦さん。植物に関する広く深い知識の持ち主だ。

　確実園は、もともと写真屋だった川原田さんの曽祖父が大正6年に植木屋を始めたことにさかのぼる。「確実なもの、お客さんのところで枯れないものを販売する」というコンセプトのもと「確実園」という店名が決められ、その伝統を受け継ぐ。亡くなった父親が、「安行でできないものをやる」と、クルメツツジやヒゴツバキを周りに先駆けて導入。グラウンドカバープランツの筆頭に挙げられ、現在あらゆるところで見かけるジャノヒゲの‘玉竜’も、確実園が最初に見出したという。

　小さい頃は、家にあった白花のタンポポが普通だと思っていたというエピソードからも伺えるが、子供の頃からいろいろな植物に囲まれて育った川原田さんは、自ずと山野草や宿根草が好きになった。特にスミレが好きで、たくさん育てていたそうだ。そして、自然な流れで家業を継いだという。父親は、手取り足取り教えてくれたわけではないが、仕事に関することを聞けば教えてくれたし、小石川植物園などに行くと、植物に関して快く教えてくれ、勉強になった。自信がついたのは、仕事を始めてから5年目に出展した銀座松屋の園芸展で、様々な人びとと接した中でのこと。日々植物と向き
合っているうちに、知識が身についていたことを自覚したのだ。確実園なら欲しいものがある、と言われるようにと、一番多い時には約1,800種、現在は約1,500種、4,500品種を揃えている。その中でも特に多いアジサイは600品種あるという。在庫が無いものでも、希望があれば確かなものを出来る限り取り寄せる。

　現在いちばん力を入れているのはフジで、約50品種を揃えている。その中でもオススメは、桃紅色の花を咲かせるヤマフジ‘昭和紅’ 1 と黄色い点が明るい空色の花弁に映えるノダフジ‘浅黄実生’ 2 。ベルギーには100品種以上を栽培するコレクターがいて、自身のところには無い78品種を導入すべく、やり取りをしていて、さらにフランスからも導入を予定しているのだそうだ。意外なことに、もともと日本ではフジの人工交配が行なわれていなかった。文献によると播種から開花まで十数年かかるとの記述もあり、とても手がかかるためだ。実際には5年ほどで開花するそうだが、つるが伸びるため管理が大変だ。現在、確実園には多くの品種が集まっているため交雑する可能性が高く、人工授粉などの手を加えずに自然に結実したものを播種、選抜して、良い品種ができないか試験中だ。今の風潮として、既存の品種と少し異なっただけで新品種として世に送り出されることが良くあるが、明確に異なるものが出ない限り、品種にはしないという。「フジなら確実園が日本一」にしたい、と語る。

1 Wisteria brachybotrys ‘昭和紅’

2 Wisteria floribunda ‘浅黄実生’

ナーセリーズVol.7のウェブ版限定コンテンツの閲覧等、以下のページで出来ます！

　川原田さんが勧める植物を他にも紹介しよう。イカリソウは約180種類のコレクションがあり、ほとんどの種類が草丈30cm程度だが、中には草丈が100cmほどに達する、確実園にしかない種類もある。未発表で目下増殖中だが、庭でこれまでにない使い方ができそうだ。常緑のプベスケンス種 3 は、花径1cm弱の十字型の白い花をたくさんつける。‘黄衣’とも呼ばれるメンブラナケウム種 4 は、すっきりした黄色の花。

3 Epimedium pubescens

4 Epimedium menbranaceum

ヤクシマアジサイ‘白雪’ 5 は、真っ白な装飾花の萼片が丸みを帯びていて、かわいらしい印象。約380品種あるというヤマアジサイのひとつ、‘九重の花吹雪’ 6 は、青紫色のてまり咲き。‘倉木の光’ 7 は、咲き始めは淡い空色で、次第に青色が濃くなる。

5 Hydrangea grosseserrata
6 Hydrangea serrata ‘九重の花吹雪’	7 Hydrangea serrata ‘倉木の光’

確実園オリジナルのトウカエデ品種‘花散里’ 8 は、葉の色が出葉時のピンクから、白、黄、黄緑、緑と変化、秋には紅葉して赤くなり、庭に彩を添える。日蔭ではピンクの発色がすばらしいそうだ。カエデの品種名は源氏物語に因んでいる。

8 Acer buergerianum ‘花散里’

最近はクサボケの品種収集にも力を入れており、‘黒獅子’ 9 は、黒赤色の千重咲き。川原田さんの父親が作出したムクゲ‘萌’ 10 は、新葉が真っ白の品種。まだお見せできないが、種苗登録申請中のガクウツギがある。葉が紫色になり、花には香りがあるという、庭のアクセントにうってつけで、外国人にも人気が出そうな品種だ。登場が今から楽しみだ。

9 Chaenomeles japonica ‘黒獅子’

10 Hibiscus syriacus ‘萌’

　紙媒体のNURSERIESでは誌面の都合で紹介しきれなかった店舗の様子と、バラエティ豊かで、魅力的な植物たちを紹介する。

　店舗の前には、夏場に木陰を作ってくれる大きなイチョウの木があり A 、店舗内では季節の展示会が開催される。写真はクリスマスローズの展示会 B C の様子。

A 店舗外観
B クリスマスローズの展示会風景	C クリスマスローズの展示会風景

ハウス内にはジャノヒゲ‘黒竜’の細葉系統 D や発芽したばかりのフジの実生 E も見られた。

D Ophiopogon japonicus ‘黒竜’の細葉タイプ

E 発芽したばかりのフジ

イカリソウは約180種類あり、原種の選抜品種や交配種など、バラエティに富む F ～ J 。

F Epimedium × Asiatic Hybrid
G Epimedium davidiiの小型タイプ	H Epimedium leptorrhizum ‘マリコ’
I Epimedium wushanense × flavum	J Epimedium 無名大輪

約380品種あるヤマアジサイのうち、おすすめの品種たち K ～ O 。花の色や形が変化に富み、希少な品種も多くある。

K Hydrangea serrata ‘伊予の十字星’
L Hydrangea serrata ‘土佐涼風’	M Hydrangea serrata ‘池の蝶’
N Hydrangea serrata ‘揚羽蝶’	O Hydrangea serrata ‘土佐のまほろば’

クサボケの‘埼玉赤’ P は、鮮やかな赤色の花をつける。

P Chaenomeles japonica ‘埼玉赤’

園内にあるハンカチノキ Q R は、昭和40年に税関を通る時、「日本で初めてですね」と言われた樹だそうだ。なお、小石川植物園は昭和35年頃に種子で導入していたという。

Q Davidia involucrata

R Davidia involucrata

トチノキ‘エリスロブラストス’ S は、新芽の赤色が素晴らしい。ナツツバキ属のマラコデンドロン種 T は、雄蕊が紫色で美しい、非常に珍しい花木。紅花マタタビ U は、かわいらしい薄紅色の花をつける。

S Aesculus neglecta ‘Erythroblastos’
T Stewartia malacodendron	U Actinidia polygama

水生植物の収集も多く、そのうちのひとつオゼコウホネ V は、柱頭が赤い種類で非常に珍しい。ツツジも多くあり、モチツツジ‘胡蝶揃’ W は、クリーム色の花弁と紅色の雄蕊の対比が美しい、古くから知られる品種。

V Nuphar japonicum var.ozeense

W Rhododendron macrosepalum ‘胡蝶揃’

　造園の仕事を請け負う際は、生産者として植物を良く知っているため、その知識が役に立つという。30年ほど前から造園業者ではほとんど施工例が無い、下草に山野草を植える手法で、お客様に喜ばれたこともあった。東京都心で、大株のミスミソウ（雪割草）を下草に使うこともある 11 。一見栽培が難しそうだが、夏に落葉樹の陰になるように植栽する
など、工夫すれば全く問題ないそうだ。

11 ミスミソウを植栽の下草として利用した例

　苦労話を伺うと、意外なことに、虫が嫌いだという。某飲料メーカーの社宅のヒマラヤスギのメンテナンスを請け負ったときには、枝にびっしり大きな毛虫がついていて参った、と話してくれた。翌年は、事前に薬剤を散布して駆除したという。

　これからの目標を伺うと、私設植物園を作りたいと話してくれた。現在は整備していないため非公開の敷地を、フジをメインに自然に近いかたちで見せるものだ。これまでに積み重ねてきた植物の知識を生かし、植物をどのように使ったらよいか、趣味家はもちろん、造園家にも役立つ植物園を構想中だ。今でも、カワセミやハヤブサがやってくるという敷地が整備され、多くの人びとの参考になり、また癒しをもたらしてくれる植物園を早く見てみたいと思った。 (取材：編集部 )