今年のチェルシーは熱中症が懸念されるほど晴天に恵まれました。
初めて目にした水生植物によるグリーン・ルーフも夏を感じさせます。写真1
キャサリン妃が携わった「自然に還れ―幼少時の思い出を創る家族の庭」も話題を呼び、今年は例年に勝る盛況となりましたが、驚いたことに、メダルを競うショーガーデンのほうには「花がない、色がない!」がトレンドとなりました。
ベスト・イン・ショーに輝いた栄えあるM&Gガーデン、まずは地層の隆起を表した、表面を焦がした樫材のインスタレーションのインパクトが絶大です。植栽は森林の下草を思わせ、花色には淡いオレンジ、青や紫もあるのですが、強い日差しの下では緑色に埋もれてしまいます。目に入るのは白や黄色ばかり。これが自宅の庭に欲しいかと問われると、「どうしよう」と首を傾げてしまうことでしょう。写真2
昨年のチェルシー、同じM&G社スポンサーのショーガーデンは、地球温暖化、水不足に合わせて、乾燥に強い植物をもっと植えましょうという提案でした。写真3
ふたつを比較すると、今年は「森林破壊が進むなら、庭に森を取り込もう、森に還れ」という主張が聞こえてきます。これが近年久々に、明確に現れた新トレンドになります。
植栽に関して言いますと、使われる植物が自動的に、はでな園芸品種より森の野草類という傾向になり、ショーガーデンのどちらも緑と白、黄色が目立ちました。
それを端的に表したショーガーデンが「サビルズ・アンド・デイビッドハーバー・ガーデン」で、都会の庭の中心に彫刻を置き、周囲に林と湿地、木漏れ日の踊る池を創りませんかという主張。写真4 ブロンズ賞となってしまいましたが、トレンドとしてはバッチリでした。
色数を抑えた中でもやはりこの人の植栽は興味深いと思わせたのが、クリス・ベアードショウ、昨年のベスト・イン・ショー受賞者。草姿を巧く組み合わせ、さまざまな緑色の中に、白、オレンジと紫を効果的に取り込んでいました。写真5
大手ショーガーデンの植栽の色使いがどれ程淡いか比較するためには、スモールガーデン部門の「モンテッソーリ保育100周年子供たちの庭」を見ていただくといいかと思います。写真6
幼児は原色から見分け始めるそうですから彩度の高い色が必要ですが、選ぶ花がなくて緑、白主体なのではなく、トレンドとして森林浴の癒しを庭に取り込みたいほど大人が疲れている、ということだ思います。
森、緑、白というキーワードを代表する今年の植物は、英国の典型的な野草カウ・パセリ(和名:シャクAnthriscus sylvestris)と西洋カノコソウ(Valeriana officinalis)。特に西洋カノコソウはいくつものショーガーデンで見受けられましたが、スモールガーデン部門初出展初ゴールドを獲得された、柏倉一統氏および佐藤未季両氏による「漢方の庭」にも、前面に入れてありました。写真7
彼らの植栽は漢方薬になる植物なので、花の大きさや色で目を引くのではなく、自然に野趣に溢れたもので構成され、見事にトレンドを突いています。また、ハードランドスケープも、コッツウォルド色の舗石と同質の自然石の組み合わせで、せせらぎに濡れた石の色、パーゴラ材の色と、綺麗なグラデーションを創り上げていました。
色の少ない不思議なチェルシーフラワーショーとなった今年ですが、会期中に周辺地域で行われるチェルシー・イン・ブルーム(花盛りのチェルシー)は活発で、高級店の並ぶキングス・ロードでは、あちこちのショーウィンドー前にアレンジが施されていました。会場最寄の地下鉄駅スローンスクエアにあったドライフラワー主体のモニュメントをご紹介しておきます。ベンチやイスも置かれ、ショー帰りの人々が足を休めたりしていました。写真8
通常チェルシーに現れたトレンド、注目された植物は話題に上り、一、二年のうちに各地の庭園や一般家庭に浸透していくのですが、今年はいったいどうなるのか、興味深いところです。
リグデン美佐子 | |
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