ハンプトンコートパレス・フラワーショウは7月第一週に、英国王立園芸協会が開催する園芸の大祭典です。メダルの獲得を目指す展示ガーデンばかりでなく、バラを初めとする数えきれないナーセリー、ガーデングッズ店が13ヘクタールという広大な敷地内に集い、園芸家の講演、お料理実演コーナー、子供たちのかかしコンペまであります。検疫の関係上、日本へは植物が持って帰れませんが、英国在住者にとっては、何でも揃う園芸ショッピングの宝庫です。
ところが、今年のハンプトンは少しばかりインパクトに欠けるところがありました。チェルシー同様展示ガーデンの数が少なく、例年ではチェルシーより遊び心の効いたガーデンデザインが出てくるという面白味に翳りが見えたように思います。その中で目を引いた、ふたつの庭をご紹介します。
色使いに定評のある女性ガーデンデザイナー、チャーリー・ブルーム氏が、「展示ガーデンに億単位のお金は必要ない筈」とアンチ・テーゼを投げかけました。使われた植物は身近に入手可能な宿根草が主体です。葉先が赤くなるチガヤImperata cylindrica ‘Rubra’が見せる縦の線と、ノコギリソウAchilleaの花序が作る水平な線、その上に遊ぶ三尺バーベナの小花たちと、植栽の見せ方の王道を踏襲しています。色彩について言えば、手渡されたリーフレット上では背景は白系で、キューブ椅子はピンクや紫でした。が、実物は鉄錆色のバック、鈍色のスレートや黒い池に黄色いイスを入れたことで、植物全体が照り映えて見えるという効果を出していました。
コンセプチュアル部門は、庭の美しさや生活提案というよりも、概念をぶつけてくる部門で、チェルシーフラワーショウにはありません。今年のコンセプチュアル部門のベストを獲得したのが、この掘り上げられた大木だったのです。基盤には生命維持に欠かせない元素名が列記され、透明な水槽には気泡が上がります。その上に切り取られた剥き出しの根鉢がのり、幹の周りは野原の植栽、木はよくみるとザクロでした。花が咲いてないのは残念でしたが、コンセプチュアル部門では見た目の美しさより象徴するものの方が重視されるのかもしれません。西洋では一般的に多産と豊穣、キリストの復活、日本では鬼子母神でしょうか、やはり生命を表現するのに適した選択のように思いました。デザイナーはスウェーデン人のビル・ワイルダー氏です。
以前にも紹介しましたが私のハンプトンでの役割は種子を売ることです。今年もいつもの仲間と足を止めてくだるお客様たちとお喋りしながら、楽しく過ごしました。日本からの方も3名お会いできました。私が所属しているプラントヘリテージは、園芸植物の保護を目的とするチャリティ団体で、入手不可能になる園芸品種をひとつでも減らそうとしています。ナショナル・コレクションといって、この植物なら英国内のどのナーセリーが専門か、どの品種を持っているか、誰もコレクションを持っていない属については誰か新しく始めてもらえないか、そのような情報交換をします。普段は自宅や職場で、絶滅しそうな園芸品種植物を育て増やし、本部に返すということをしています。
来年、おいでになる方がありましたら、事前にでも会場ででも是非一声おかけください。
リグデン美佐子 | |
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