今年のチェルシーは暑いほどの好天気に恵まれ、例年に増して盛況でした。入場券はここ数年で一番早く売り切れたとのこと。直前のマンチェスターでのテロ事件もものともせず、イギリス中、世界中から花好き庭好きが集まりました。イギリスのEU離脱国民投票時期にデイリー・テレグラフ社、ロクシタン、ブルーウィン・ドルフィン等の老舗大手スポンサーが出展見合わせを発表し、ショウの目玉とも言える大型ショウガーデンが例年の半数以下、8件に減ってしまったことを思えばこれは驚くべきことです。逆にチェルシーの不動の立場を証明したとも言えるでしょう。
今回のベスト・ショウガーデンはマルタ島の放棄された石灰岩採掘場を再現した「M&Gガーデン」が受賞しました。石切り場という表現のほうがぴったりかもしれません。乾燥地の厳しい条件下、人間の営みの爪痕を自然が取り戻していくその危うい再生の姿が浮き彫りにされています。縦横上下に走る直線のデザインの強さとマルタ島固有種を含む植栽が見せるしたたかさが、再生への思いを訴えかけます。
植栽で目を奪われたのは、大型ショウガーデンの不在を埋めた「いい気分Feel Goodガーデン」でした。イギリスのラジオ局Radio 2の開局50周年記念に有名DJなどのパーソナリティとベテラン・ガーデンデザイナーがタイアップして五感に合わせ五種類の庭を展示。出展の発表が今年3月末だったことから思えば、ハードスケジュールの中での設計施工だったことでしょうが、それを伺わせないいいものになっていました。特に「触覚、質感」をテーマにしたマット・キートリーのデザインでは、小型の松を背景に茶色に近いジャーマンアイリス、薄黄色のカリフォルニアポピー、アザミ、スティーパを組み合わせ見事なばかりでした。彼が2014年15年連続でチェルシ一般投票人気ショウガーデン第一位を受賞したのも頷けます。
構築物と植栽との関係が興味深かったのは、フレッシュガーデン部門の「乳がんの今、顕微鏡を通して」という庭です。同心円を並べ視線を庭の奥に導くとともに、手前には小振りで形のはっきりしない植物を配置し、奥に行くほど背の高いジギタリスや形の大胆なアンジェリカ等アーキテクチュアルプランツを入れ焦点を当てています。恰も顕微鏡をのぞき込むように。デザインしたルース・ウィルモットは昨年フレッシュガーデン部門のベスト賞を取っています。今年はシルバーギルトメダルになりましたが、これからの活躍が期待されます。
著名なナーセリーが目白押しのグレイト・パビリオン内では、ありとあらゆる植物展示の間に、障子の張られた東屋を見つけました。近づいてみると花段に可愛らしいサクラソウが並んでいます。スタドン・ファーム・ナーセリーは日本の専門家のアドバイスを受けながら、イギリスで育種や園芸品種の同定をしているそうです。木製ラベルに日本語で名前が書いてあり、私が「ここにいるだけで日本に帰った気がする」などと言っていると、「実は障子が破れてね、日本人の知人に直し方習ったの」というので、「お花作って貼ったでしょ?」と言って笑いあいました。このようなやりとりが楽しいのもフラワーショウの醍醐味です。
これまでは朝一に入場し夕方帰ることが多かったのですが、今年はお昼に入り、夜八時半まで居残ってみました。チェルシーは元々イギリスの社交シーズンの始まりだったという歴史もあり、涼しくなる夕方から紳士淑女がぐっと増えます。シャンペンを片手にそぞろ歩きながらセレブ同士が顔つなぎをする場でもあると改めて認識しました。平日8時終了で9時までは暗くならないので、午前中の人混みを避け夕方から入場するのも面白いかもしれません。皆様も是非一度お越しください。
リグデン美佐子 | |
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