近代日本の園芸に関して調べようとすると、文献は想像よりも少なく、情報は散見している。江戸時代の資料探しと比較すると、なんとも心許ないと感じたのは一度や二度ではなかった。
8年ほど前に足を運んだ「花開く江戸の園芸」展では、「園芸文化の明治維新」と題した終章に『横浜植木花菖蒲輸出カタログ』が展示されていた。浮世絵や屏風、当時の鉢に江戸時代の園芸文化の成熟を堪能した順路の後だった。この続きを知りたいと願いながら半ば諦めていたが、近藤三雄先生が、横浜植木株式会社に関する書籍のために調査を進めていると耳にし、出版を心待ちにしていた。
設立から130年を経た企業を軸にした内容の本書だが、時代を躍動する人々の姿から、明治以降の園芸シーンの一面を知ることができる。エピソードを検証し、関連画像が添えられ、一話完結形式を取った項目は、全部で64。
・「明治20年代頃から横浜植木等が新聞に掲載した広告記事から読み取れる当時の園芸事情」
・「観光植物園としての横浜植木、そのあとさき」
・「横浜植木創業当時、日本のソテツ葉とススキの穂は欧米で人気を博し、大量に輸出されていた」
・「大正期より底面給(吸)水型プランター(コンテナ)を輸入し国内で先駆的に販売」
・「『チェルシーフラワーショー』に横浜植木は日本から初めて大正2(1913)年から昭和14(1939)年まで出展、受賞の常連」
(本書目次より抜粋)
など、どこから読み始めても興味は尽きない。
本書で見られる『LILIES OF JAPAN』や『MAPLES OF JAPAN』のような当時の輸出用英文カタログを、大切に所蔵している海外のコレクターや図書館も多いと聞く。全編に英文サマリーも付いているので、そんな外国の園芸・造園人にも手に取ってもらえるだろう。
植物と庭は不易流行と改めて思い知る。本書で読む、明治維新以降、急激な時代の変遷と共にあった園芸ビジネスの実際は、きっと、新型コロナ禍で描きにくくなった私たちの未来図に差す、一筋の光明となる。
近藤三雄
昭和23年横浜生まれ。横浜平沼高等学校・東京農業大学造園学科卒業。前・東京農業大学造園学科教授。専門は、造園植栽学、都市緑化技術学、農学博士。定年退職後、造園伝道師を名乗り、一念発起し、「明治・大正期の園芸・造園の逸話の探求」の勉強にいそしむ。現・東京農業大学名誉教授。
平野正裕
1960年静岡県浜北市(現・浜松市浜北区)生まれ。東海大学大学院修士課程修了ののち、1986年横浜市史編集室勤務。1992年横浜開港資料館調査研究員、2015年横浜市史資料室。2020年退職。
松山誠
1962年生まれ。東京外国語大学卒業。ライター、編集者。国立科学博物館後援会勤務後、花業界のさまざまな現場で30年以上経験を積む。
粟野隆
1976年兵庫県丹波篠山生まれ。東京農業大学農学部造園学科卒業、同大学院農学研究科農学専攻博士後期課程修了。国立文化財機構奈良文化財研究所研究員を経て、現在、東京農業大学地域環境科学部造園科学科教授。
(上記プロフィールは、本書より抜粋)
百花繚乱「横浜植木物語」 ~花と緑で世界を結んだ先駆者の歩みを追憶~ |
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編著者 | 近藤 三雄 |
著者 | 平野 正裕・松山 誠・粟野 隆 |
規格 | 18.2 x 2.4 x 25.7 cm 416ページ |
定価 | 本体 4,000円(税別) |
ISBN | 978-4416919859 |
発行日 | 2021年7月13日 |
発行 | 株式会社誠文堂新光社 |
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情報提供 | JGN事務局 Gadenet(ガデネット) 会員情報マイページ: https://gadenet.jp/jgn/ |