【JGNイベント記念限定公開!2024年4月12日~5月15日15:00】
JGNスペシャルイベント 草ぶえの丘バラ園見学会 |
千葉県立中央博物館 自然誌・歴史研究部 資料管理研究科長・JGN創立メンバー 御巫 由紀
► 御巫 由紀(みかなぎ ゆき) 千葉大学自然科学研究科博士課程修了、農学博士。千葉大学非常勤講師。世界バラ会連合ヘリテージローズ保存委員会前委員長、NPOバラ文化研究所理事、国営越後丘陵公園国際香りのばら新品種コンクール審査委員。千葉県立中央博物館で植物の標本、貴重書・絵画等の資料管理を担当するかたわら、バラの野生種の分類と自生地の現状、品種改良の歴史を探る。毎年、春から初夏にかけてバラの花を求めて国内外を巡るとともに、バラを中心とした講演会等で講師を務める。著書は「魅惑のオールドローズ図鑑」、「野ばらハンドブック」等。 |
歌にも登場し、日本人にとってなじみ深いハマナス。バラの育種に利用され、耐寒性品種だけでなく、黄花やフリンジ咲き、食用の品種も作出されています。バラの魅力に取りつかれ、研究に携わっている御巫 由紀さんに、ハマナスから生まれた品種たちをご紹介いただきました。海岸に自生しているハマナスから広がる世界を垣間見ていただければ幸いです。(事務局)
今年6月、日本の野生バラについてまとめた『野ばらハンドブック』を出版しました。ページをめくっていた同僚の昆虫研究者が最初に言ったのは、「あれ、ハマナスってバラだったんですか!?」。時代が令和になり、皇后雅子様のお印はハマナスだというのにこれでは困ります。ハマナスについて、そしてハマナスがバラの育種にどれだけ貢献してきたかについて、記します。
ハマナスの自生地はアジア北東部、すなわち日本から朝鮮半島、中国、ロシア沿海州の海岸。冬の寒さは厳しく、一年中、潮風にさらされる環境です 1 。欧米の寒冷地でも海岸に群生が見られますが、これは護岸・砂防等の目的で植栽されたハマナスが広がったもの。海水浴場等では駆逐できない厄介な外来種となっています。
日本では北海道と東北地方に多く、ハマナスの南限は太平洋側が千葉県、日本海側が島根県です。海流で運ばれた植物体が、海岸に流れ着いて根づくことで分布を広げます。ただ、ハマナスの発芽にはかなりの低温が必要なので、千葉県の自生地では種子繁殖はできていないようです。
1 新潟県桃崎浜のハマナス |
バラ属野生種は世界で150~200種ほどあるのに対して、園芸品種のバラの祖先となったのはわずか10種あまり。野生種を用いた育種の取り組みが最近は世界各地で行われていますので、その数が増えていくのは間違いありません。しかし、これまでのバラの育種に特に貢献した野生種として、日本原産のノイバラ、テリハノイバラと共にハマナスを挙げるのには誰も異存はないでしょう。
ハマナスを用いた育種は、強い耐寒性の獲得を目的として行われてきましたが、育種の過程で黄花品種やフリンジ咲きの品種、特別香りのよい品種も作られました。ハマナスの学名をとって「ハイブリッドルゴーサ系統」と呼ばれるこの品種群から、いくつかご紹介します。
1 初期の耐寒性品種
ハマナスを用いた育種の試みは、19世紀に始まりました。本格的に耐寒性育種に取り組んだのはドイツの育種家ミュラー博士です。代表的な品種は‘トゥスネルダ’(1886)、‘コンラッド・フェルディナンド・マイヤー’(1899)など。
初期のハイブリッドルゴーサ系統にはちょっと不思議な葉を鑑賞する品種もあります。フランスの育種家コシェ=コシェが作出した‘アディアンティフォリア’(1907) 2 で、白く小さい花は目立ちませんが、とてもバラとは思えない、シダそっくりな葉が個性的です。
2 ‘Adiantifolia’ 1907, Charles Pierre Marie Cochet-Cochet |
2 コルデシー系統:ハマナスとテリハノイバラから生まれた品種群
現在は耐病性品種の育種で定評があるコルデス社(ドイツ)ですが、かつては耐寒性品種で知られていました。20世紀初め、アメリカできわめて耐寒性が強い‘マックス・グラフ’(1919) 3 という品種が発見されました。ハマナスとテリハノイバラの交雑種だと考えられ、コルデス社が育種に使おうとしましたが残念ながら完全に不稔性。しかし1940年、わずかに結実したタネから1本だけ、よく結実し発芽率100%、耐寒性が強く、しかも返り咲きする株が得られ…
►JGN NEWS LETTER 2019年初秋号 Vol.12(その1) ►JGN NEWS LETTER 2019年初秋号 Vol.12(その2) ►JGN NEWS LETTER 2019年初秋号 Vol.12(その3) ►JGN NEWS LETTER 2019年初秋号 Vol.12(その4) |
しかし1940年、わずかに結実したタネから1本だけ、よく結実し発芽率100%、耐寒性が強く、しかも返り咲きする株が得られました。ロサ・コルデシー(Rosa kordesii H.Wulff)と名付けられたこのバラを交配親として作出されたのが「耐霜性があり秋に返り咲くつるばら」です。北欧を旅するとどこでも目につく元気な赤いバラ、‘フラメンタンツ’(1952) 4 はその代表です。
3 ‘Max Graf’ 1919, J. H. Bowditch |
4 ‘Flammentanz’ 1952以前, Wilhelm J. H. Kordes II |
3 最近の耐寒性品種
コルデス社に続いて、世界各地でハマナスを用いた育種の試みが行われるようになりました。あまり知られていませんがお薦めの耐寒性ハイブリッドルゴーサが‘リタウスマ’(1963) 5 。ラトビアの国立植物園のジドラ・アルフレッドヴナ・リエクスタ博士の品種で、耐寒性、耐病性ともに優れています。「リタウスマ」はラトビア語で「夜明け」を意味します。
絶対忘れてはいけないのがカナダ農務・農産食品省の中央実験農場(オタワ)の育種家、フェリシタス・スウェイダ博士。ハイブリッドルゴーサ系統の育種を進め、カナダ開拓者の名前をとって品種に命名した、「エクスプローラー・シリーズ」で有名です。‘マーティン・フロビシャー’(1961) 6 から始まったこのシリーズは、今も北欧、北米の寒冷地でよく栽培されています。
もう1つ、最近人気の品種が‘アン・エント’(1978) 7 。ニュージーランドの著名なバラの研究家ナンシー・スティーンさんが発見し、ガーデナーだった Annemarie Endt-Ferwerda さんにちなんで命名したバラです。濃紫色の花弁と黄色い雄しべ、雌しべのコントラストが鮮やかです。ハマナスと北米の野生種 ロサ・フォリオローサの交雑で生まれたと考えられていて、耐寒性だけでなく、乾燥にも暑さにも日陰にも強いバラです。
5 ‘Ritausma’ 1963, Dzidra Alfredovna Rieksta |
6 ‘Martin Frobisher’ 1961, Felicitas Svejda |
7 ‘Ann Endt’ 1978, Nancy Steen |
意外に思われる方もありそうですが、ハイブリッドルゴーサ系統には黄花品種があります。しかもかなり古い。最初の黄花品種‘アグネス’ 8 は1900年頃に発表されていますから、最初の黄色いハイブリッドティーといわれる‘ソレイユ・ドール’(1900, Joseph Pernet-Ducher または1898以前という説もあり)に迫る古さです。‘アグネス’の他、明るいオレンジ色の‘ドクター・エッケナー’(1928) 9 、比較的新しい‘トパーズ・ジュエル’(1987, R. S. Moore)等を今も見ることができます。
8 ‘Agnes’ 1900頃, Saunders (Raymond画 “Old Garden Roses, part one” 1955) |
9 ‘Dr. Eckener’ 1928, Berger |
ハマナスとの交配で、稀にフリンジ咲きの品種が生まれます。代表的なのは‘フィンブリアータ’(1891) 10 、‘F・J・グローテンドルスト’(1918)等 11 ・ 12 。カーネーションのように先が切れ込む花弁は繊細な印象です。
10 ‘Fimbriata’ 1891, Morlet |
11 ‘F. J. Grootendorst’ 1918, de Goey |
12 ‘White Grootendorst’ 1962, P. Eddy |
20世紀初めのフランスで、たいへん香りのよいハイブリッドルゴーサ系統品種が作られました。有名なのはパリの南にあるバラ園、ライレローズゆかりの2品種‘ローズ・ア・パルファン・ドゥ・ライ’(1901, J. Gravereaux)と‘ロズレ・ドゥ・ライ’(1901) 13 です。
13 ‘Roseraie de l’Hay’ 1901, Cochet-Cochet |
また、作出年代や由来は不明ですが、中国で香料や茶、酒、月餅や鮮花餅などの菓子に用いるために花が生産されているハイブリッドルゴーサ系統の品種もあります。一般的に総称でマイカイ(玫瑰)と呼ばれますが、‘紫枝’、‘豊華’等の品種があります 14 ・ 15 。
14-1 マイカイ(玫瑰) |
14-2 マイカイ(玫瑰) |
15 玫瑰茶 |
ご紹介したい品種はまだまだありますが、ハマナスから生まれたハイブリッドルゴーサ系統の多様性を感じていただけたでしょうか?ハマナスといえば耐寒性、と思われがちですがこのようにさまざまな可能性を秘めています。耐暑性がある品種が多いのも面白いところで、さらなる進展が期待できそうです。
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